メインスタッフ鼎談

『働くお兄さん!』監督の高嶋友也さん、脚本の熊本浩武さん、原作・シリーズ構成・チーフプロデューサーの宇佐義大さんのお三方に「メインスタッフ鼎談」として作品について語っていただきました。



▲高嶋監督(左)、宇佐さん(中央・代理でぬいぐるみ)、熊本さん(右)

――そもそも『働くお兄さん!』の企画はどのように立ち上がったのかお伺いしたいのですが、高嶋監督にオファーしたのは何かきっかけがあったのでしょうか?

宇佐義大(以下、宇佐):以前ウルトラスーパーアニメタイムという枠で『影鰐-KAGEWANI-』を制作した際に高嶋さんと知り合ったのがきっかけです。『影鰐-KAGEWANI-』は作品としてももちろん面白かったですが、それ以上に、制作的にローカロリーながらもちゃんと演出が効いていて良い作り方だなと感じました。その手法を違う作風で活かしてみたくてお声がけをしました。

――なるほど。熊本さんは過去、高嶋監督と一緒にお仕事をされていますね。

高嶋友也(以下、高嶋):熊本さんとは『闇芝居』の1期でご一緒させていただいて、その後『影鰐-KAGEWANI-』でもお声がけしました。『影鰐-KAGEWANI-』が終わったあと「コメディもやりたいね」というお話を振っていただいて……、振っていただきましたよね?

熊本浩武(以下、熊本):そうだっけ?

宇佐:振ったことにしておきましょう。

高嶋:熊本さんはもともと芸人さんでもありコメディの台本制作に慣れているので、『働くお兄さん!』を成功させるには熊本さんしかいない! とうことで今回もお願いしました。

熊本:お話をいただいたときは「動物がお仕事を紹介する話です」と、すごくざっくりとしていて。誰向けなのだろうとか、どんな話になるのかとか、そのときは想像できなかったのですが、それが逆に面白そうだなと思いました。

――では「お仕事」をテーマにしたのは何か理由があったのでしょうか。

宇佐:流行りを追うと作品の寿命が短くなるので、より一般性・普遍性が高い企画にしたいと思っていました。長く続けられて、いつまででも制作できるテーマってなんだろうと考えた時に、身近なテーマを若い人たちに見せたいということだと、勉強とかお仕事なのかなと。

――1~12話まで放送が終了しましたが、実際にやってみてどうでしたか?

高嶋:大成功です!

一同:(笑)

高嶋:オリジナル作品を一から制作させてもらうということで、デザインやシナリオの勝負ポイントを毎回勉強させてもらいました。第1話「宅配便のお兄さん!」は宇佐さんの脚本なのですが、コンテにした際いろいろ足したことで、小学生が好きそうなギャグになってしまい何度も直しました。あのまま進行していたら未来が変わっていたと思います(笑) 3分と短い尺のアニメで何を見せたらいいのか、わかりやすく伝わって欲しいからわかりやすいギャグを入れようとしたんですけど、結果としてこの作品の良さはそういう部分ではなかったんですよね。

宇佐:すごい「ボヨヨーン」とかなってて、どうしようかと思いました。

▲第1話「宅配便のお兄さん!」
 

――熊本さんはどうでしょうか。

熊本:新しいジャンルのものに挑戦するときは「どういう方向性で作っていったらいいのかな」と思うのですが、やりたいことを受け入れてくれるチームだなと思います。スタッフもそうですけど、お客さんも含めて。それは安心しました。

宇佐:今回は熊本さんの脚本がすごく良かったです。

熊本:ありがとうございます。

宇佐:熊本さんの脚本は、流れとか言い回しで直接的な台詞の意味だけではない、言外に語る部分を上手く忍ばせてくださっていて、かなり作品に奥行きができました。尺が短いので、説明しすぎると入らないし、段取りっぽくなるとつまらないし、何よりテンポやリズムが悪くなるので。

熊本:きちんと書こうとすると理詰めになるんですよね。

宇佐:明示されていない情報を上手く視聴者に想像で補わせることで、キャラクターや世界観が活き活きしていくのが熊本さんの脚本の巧さだなと。そこはすごく勉強になりました。

高嶋:ここまで褒められてどうですか、熊本さん?

熊本:そのコメントに対する感想いる?(笑)

――(笑) ちなみに宇佐さんは『影鰐-KAGEWANI-』をきっかけに高嶋監督へオファーしたとおっしゃっていましたが、一緒に制作されていかがでしたか?

宇佐:想像以上に良かったです。

高嶋:ありがとうございます!

宇佐:高嶋さんにしても熊本さんにしても、自分のやりたいことを簡単に譲らないというか、毎回細部にこだわってやってくれたのが有り難かったです。作家性的な尖った部分もありながら、周りの意見を取り入れる柔軟性もあって、簡単に妥協しない。メインキャストの富田くん、溝口くんも毎回脚本を読み込んだ上で作品が目指すものをしっかり考えながら取り組んでくれたので、すごくいいチームになりました。

――メインキャストの富田健太郎さん、溝口琢矢さんは、今回ジングルテーマ、主題歌を担当するDearDreamのメンバーでもありますね。

宇佐:今回の主役2名に求めたい要素が2つあって、1つはキャラクターとキャストの年齢が近いこと。0から作るオリジナルの作品なので、制作過程を通してキャラクターとキャストが一緒に成長する要素が欲しくて、僕らもキャストと一緒に学び、みんなで作品を育てていく環境にしたいと考えていました。もう1つは、タピオとクエ彦の関係性を考えた時に、作品の中だけには限らず、もともと仲がいい人の組み合わせが良いのでは、と考えていました。そんな時にランティスさんに「ドリフェス!」のファンミーティングにご招待いただいて。偶然ではあるんですけど、DearDreamというユニットに自分が欲しいと思っていた要素を感じたので、起用出来ないかとご相談させていただきました。


――熊本さんは脚本づくりで何か気を付けていることはありますか?

熊本:先輩が完璧になりすぎないよう気を付けました。教える立場の人が完璧すぎると話が入ってこないと思うので。先輩は仕事が出来るし指導もしてくれるんですけど、何か欠落していて、それに振り回されるのがタピオとクエ彦、という関係性は壊さないようにしました。

――確かに、完璧すぎないことで人間味がでますね。

熊本:第4話「レンタカー屋のお兄さん!」に登場するゾウ林先輩は、体があんなに大きいのに敢えて小さい車の中に入る仕事をしていたり。そういった違和感を大事にしていますね。バイトの先輩って完璧な人はあまりいないじゃないですか。

宇佐:あくまでバイトの先輩なんですよね。上司では無いし、多くの場合は若者同士でもあるので、タピオ、クエ彦と遠くなく、尊敬されすぎない。身近にいそうなちょっと変わった人、くらいのバランスがリアルかなと。

▲第4話「レンタカー屋のお兄さん!」
 

――脚本を執筆されるときは先に動物のことを調べるのですか?

熊本:まず仕事があって、この仕事に就かせる動物は何だろう? という順番です。それか昔話的な要素を引用するパターンもあります。サルカニ合戦とか、因幡の白兎とか。動物から書こうとすることもあるのですが、意外と難しくて(笑)

――では、高嶋監督は映像制作に関してこだわられている部分はありましたか?

高嶋:宇佐さんから「アナログ感が欲しい」オーダーをいただいたので、どうしたらそれを実現できるか、というところには結構注力しました。気を付けていることは、語弊を恐れずに言うと「動かさない」という部分です。動かそうと思えばいくらでも動かせるのですが、今回のアニメーションのテーマとしては、質と作業量が伴っているコスパの良さとか、そういうところを目指しているので。それをやることで、ほかのアニメには出来ないアニメの良さがこの作品でアピールできればと思っていてます。動くか動かないかよりも、話の面白さを最低限の要素で見せたいと考え制作しました。

宇佐:今作ではルックの部分で「いかに作り込まないか」を結構徹底的に求めました。「描き込みが細かいので塗りつぶして下さい」とか「窓が多いので減らして下さい」みたいな修正を序盤かなりお願いした記憶があります。

高嶋:第11話「焼肉屋のお兄さん!」ではタピオを転がしたり、第12話「ケーキ屋のお兄さん!」はクエ彦の家の料理を描き込んだりして、V編(※放送局に納品するためのデータを作る最終の映像編集の場)のときに宇佐さんから「後から描き込みましたね?」とツッコミがありました(笑)

▲第11話「焼肉屋のお兄さん!」/第12話「ケーキ屋のお兄さん!」
 

宇佐:個人的に、昨今アニメのクオリティがどんどん上がってきていて、それでいてクオリティを上げることが面白さに繋がっていないことが多いと感じています。だから意図的にクオリティをコントロールして下げて、尚且つちゃんと作品として成立するギリギリを狙いたくて、高嶋さんとだったらやれるなと思いました。『働くお兄さん!』はアニメとしては動いてないし、描き込まれていないけど、それでもちゃんと作品の体は成していて、面白さもあるはずなので。

――では最初の意図からふりかえってみると……

宇佐:最高を超えましたね。

――ネタバレ有りでお好きなシーンやキャラクターを教えていただけますでしょうか。

高嶋:僕は第6話「交通量調査のお兄さん!」です。仕事だけどよく見たらこれ音ゲーじゃね? みたいな、少し飛躍しているけどエンタメになっているというか。ただ仕事を紹介するだけではなく、単調そうな仕事でも自分たちで楽しみ方を作って体言するというシーンに出来たかと思い、気に入っています。

熊本:僕は第2話「コンビニのお兄さん!」のジャコネ川先輩が好きです。振り返ってみるとこだわったキャラクターだなと (笑) もっと子悪党感が欲しいとか、小物感がいいんだとか、かなり細かい部分までずっと調整していました。

▲第6話「交通量調査のお兄さん!」/第2話「コンビニのお兄さん!」
 
宇佐:僕は第9話「働かないお兄さん・冬」のコウ盛先輩が一番好きです。あの回は何の役にも立たない、見習うべき部分のない先輩を置きたいっていうのが話のコンセプトとして元々あったのですが、熊本さんの脚本を読んだときに「完璧すぎる」と思いました。「ああいう先輩もいるよな」という意味では、物語的な機能はちゃんと果たしているし、石原くんの演技も良かった。「バイブス高めで」ってなんだよと。

▲第9話「働かないお兄さん・冬」
 

――それでは最後に、これまで『働くお兄さん!』を見ていただいた視聴者へメッセージをお願いします。

宇佐:作っといてなんですが、働かなくていいならそれに越したことはないので、働きたくないなって思いました。

熊本:『働くお兄さん!』は細かい遊びが色々と入っているので、何度見返しても楽しい作品だと思います。短いから簡単に見逃すことができるし、見返してみたらまた別の発見があると思うので、ぜひブルーレイを買ってください。

高嶋:働いている人も働いていない人も、辛い状況のなかでも楽しみ方を見出して、タピオやクエ彦たちに元気をもらって頑張ってください!

――高嶋監督、熊本さん、宇佐さん、ありがとうございました!

 


『働くお兄さん!』 第1話「宅配便のお兄さん!」